深夜の大学病院に着いたのは、たぶん1時ごろだったと思う。
すぐに診療室に運び込まれていく母、その時はほとんど
会話することは無かったような…はっきり覚えてない。
数分後、後ろ髪がぼさぼさでコートを着た男性が診療室に入っていった。
それが、母の担当医で、その後、執刀してくれたNドクターだった。
正月2日になったばかり寝入りばなをたたき起こされ駆けつけてくれたのだ。
まもなく、Nドクターから簡単な説明を受けた。
くも膜下出血。命の助かる確率。
ひょっとすると2度と母と話すことは出来ないかもしれない。
彼は淡々とそんな事を語った。
脳内の出血の場合、血液が活発に流れないような処置をして
母の場合は眠らせてそのまま手術にもちこむようだ。
だから、ドクターは「もう二度と会話できないかも」と言ったわけだ。
私はただただ呆然とアホのような顔でNドクターの顔を眺めていた。
はっと気づき、あわてて夫に電話を入れて父を病院へ連れてきてもらった。
父はパジャマに上着を着て、私以上に呆然としていた。
父と一緒にナースに連れられて薄暗い病室へ
昏々と眠る母のそばに行った。
ベッドの傍らでショックを受けた父はシクシク泣き出した、
母の変わり果てた姿を見てかわいそうだと言うのだ。
「こんな大事なときになぜ寝ていたのか。」と自分を責めてもいた。
驚いた若いナースが大丈夫ですか?と慰めてくれた。
私は母と対面した時、多少の心の準備があった。
しかし、父は階下で大騒ぎをしている中でも起こされるまで気がつかず、
居間に降りて来た時には母が救急車に乗るところだった、
そして今、さっきまで元気だった母が今は死の一歩手前で眠っている。
つづく